orange5巻(完)、主人公は誰だったのか?

by とな



待っていましたorangeの5巻。
実写映画化も決まり、本屋さんでもばっちり売り場が作られているような、話題の本になっているのは本当にうれしいことです。
何回か繰り返し読んで、色々考えたことなど


4巻のラストでは、未来では大晦日に須和が菜穂にしていることが明かされます。
同時に、菜穂と翔はその日のケンカを最後まで引きずってしまうことも・・・

訪れた大晦日、手紙通り翔とケンカしてしまう菜穂。
彼女に力を与えたのは、ほかでもない須和の言葉でした。
翔の心が閉ざされたまま迎えたバレンタイン、
菜穂は10年後の自分からのメッセージを翔に伝え、チョコを渡します。
ようやく翔の心が開かれた…そんな次の日、それでも抑えられなかった翔の自殺衝動。
しかし、すんでのところで彼にためらいの気持ちが生まれます。
それは、みんながしてきたこれまでのことが、彼の中に「まだ死にたくない」という気持ちを生んでいたからなのでした。

タイムカプセルを埋める6人、翔は、自分へのメッセージをしっかりと書いています。
10年後の菜穂が手紙に書いた、弘法山のオレンジの夕日、この世界の翔はきっと見れる…そんな終わり方でした。

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けっこうなボリュームがあるんですが1巻から読み直してみるとかなり伏線が張られてて、しっかり回収されているんですよね、すごい!
2巻LETTER6のヘアピンのとことか。
大晦日のケンカの後、翔視点のエピソードが盛り込まれているのが良かった…このあたりは翔がメンヘラすぎてもう助からないと…ハラハラさせられました。

で、色々思ったこと
★この話の主人公は誰だったのか?
★須和はそれでよかったのか?
★未来から手紙が届いた世界はなんだったのか?
について自分用にまとめておきます。

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★この話の主人公は誰だったのか?
いちばん最初に思ったことでした。
ラストのシーンは10年後の菜穂で終わります。
ラストの「救うよ 何度でも 何度でも」
このモノローグはたぶん、翔を失った10年後の菜穂です。
さかのぼってバレンタインの告白、翔の心を動かしたのは、10年後の菜穂の言葉でした。
そして、今の菜穂が勇気をして、一歩を踏み出したり、普段しないような行動がとれたのは、手紙のおかげです。何枚にも及ぶ長い長い手紙は、10年後の菜穂の後悔そのものでした。
本当に翔を救いたかったのは、「過ぎてしまったことを何度も何度も後悔した(2巻LETTER5)」10年後の菜穂、そして本当に翔を救うことができたのも、10年後の菜穂だったような気がします。

「後悔先に立たず」という言葉があるように、普通はのちの後悔を今知ることはできず、今を十分に注意して行動することしかできません。
orangeの世界の子たちは、10年後の後悔を知ったおかげで、翔を助けることができました。でもそれは奇跡みたいなことです。そのときそのときの決断の、何が正しいか、何が幸せな未来につながるかなんて今はわからないのですから…。でも、菜穂の行動なんかはわかりやすいんですが、翔を救うために取るべき行動は、自分の気持ちに素直になること、怖がらないで、翔と向き合うことばっかりだった、っていうのが、この話の面白いところだと思います。

高野先生のあとがき、「後悔なく10年後を過ごせていますように」の言葉は、読者に向けられています。どんな前向きな人でも一度は後悔したことがあるはず。10年後の菜穂の後悔は読み手自身にも通じる普遍的なテーマだなあ、と思うんですよね。わたしも内気であんまり勇気出せないほうで、かなり感情移入して読んでいたので、そういう人は特に…このお話の主人公は高校生の菜穂であるようで、実は10年後の菜穂で、読み手自身でもあるんじゃないかなあと思いました。

10年後視点で見ると、10年という月日を経て、みんなは翔が自殺だったことを、菜穂は翔が自分を好きでいたことを知りました。翔が死んだ直後よりももっともっとたくさんの後悔が押し寄せてきただろうなあ、と思います。彼らは大人ですから、後悔してもどうしようもないことがわかっています。それでも何かしたい、翔を救いたいという想いが、過去への手紙という形になり、どこかの世界でそれが届く…そういう、奇跡のお話なんですよね。でも、10年後のみんなのもとには翔は戻ってこないし、後悔は消えない、そう考えると、ものすごくやるせない気持ちになります。
だからこそ、後悔しないように生きよう、ってわたしは思うわけですが…。
最後のどこか吹っ切れた表情の10年後の菜穂は、どこかの世界で翔が救われたことがわかったのかなあ、とか、信じたいですね。

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★須和はそれでよかったのか? 読者の人気キャラクター投票を見ましたが…、おめでとうございます(盛大なネタバレ)!
orangeの裏主人公は間違いなく須和ですよね。
結果的に、菜穂に告白しない、それどころか菜穂と翔をくっつけるためにいろいろ頑張っちゃう須和を見て、読み終わった後、お前それでいいんかーーーーーーい!と思いました(わたしは須和派じゃないけど、須和派の人々の嗚咽が聞こえる…)。

なんていうか少女漫画のセオリーって報われないとわかっていても後悔しないためにとりあえず告白みたいなとこがあります。須和の行動は全く逆を行ってます。貴子が怒ったように、翔を救うとか関係なく自分の気持ちは言うべきだと思ったんですよ。

でも繰り返し読んでいると、ああ、これが須和の決断なんだなあ、というのが感じられるようになってきました。

そもそも須和の後悔ってなんでしょう?
須和の手紙にも「後悔を消してほしい」とあります。
翔と菜穂をうまく応援できず、翔が死んだあと、どうしてちゃんと2人を見てやれなかったんだろう、と後悔したことが書いてあります。
須和の願いは「そしてどうか菜穂と翔が10年後も、一緒に笑っていられますように。2人のことをよろしくな。」です。

10年後の世界では、翔はサッカー部に入部しないし、そこまで親しくなかったのかもしれません。須和にとって翔は恋のライバル(笑)ですが、翔は初めから身を引いているところがあります…そういう中での大晦日。泣いている菜穂を放っておけなかった須和が告白するのは自然なことだと思います。その後、須和は告白の話を翔にするのは、発破をかけるとか、早くちゃんと仲直りしろとか、そういう気持ちもあったと思うのですが、翔が無理しているのをわかっていて(たぶんわかっている)、応援よろしくな、と言ってしまいます。
唯一、菜穂の気持ちにも気が付いていた須和が背中を押せば、菜穂と翔はもっと近づけたのかもしれないけれど、それができなかった、いや、ふつうはできないですよね。でも、ちょっと須和はずるかったんだと思います。「菜穂を奪ってごめん」みんなには笑われていたけど、須和がしたことはやっぱり菜穂を奪う結果になってしまった。そういう後悔。本当に好きな人の幸せを考えることができなかった後悔なのかなあ、と。

菜穂も、須和の告白によって、翔に嫌われてしまっても須和が私のことを好きでいてくれるんだ…と思ったはず。バレンタインでほんとうは翔にあげたかったチョコをあげられなかったのは、須和のことを気にしてというのもあったかもしれません。人のことを気にしすぎというくらい気にする菜穂だから、須和の気持ちを知ることは安心であり、重荷になってしまったかも。

須和の手紙には、菜穂と子供の写真も入っていましたが、菜穂の手紙にはそのことは伏せてあります。ただ須和が自分を大切に思っていてくれたことや、「須和は私の心を救ってくれた大切な人」といったことが書いてあります(普通ならこれで気が付きそうなものだけど、菜穂の様子からするに気が付いていない…)。菜穂は「翔が生きてても私は須和と結婚するよ」と言うけれど、それは、10年後の菜穂はそのくらい須和が好きで、翔に気持ちがよみがえったりしない、ということ。高校生の菜穂は、恋をしているのは須和ではなくて、翔なんですよね。そう考えると菜穂の手紙はちょっと切なく、未来を知っていながら自分の気持ちを告げない須和の覚悟は本当にすごいと思います。

あと、後悔とは別の視点で考えると、須和と翔の関係性の変化というのもあるかも。
未来を少しずつ変えたことで、須和と翔の距離はすごく縮まっています。今の須和にとっては菜穂だけでなく翔もすごくすごく大切な存在で、関係を壊すようなことはできなくなってしまった、というのは大きいんじゃないでしょうか。

それにしても、「一生告白しない」でいいのかなあ。
告白しない代わりに、須和が大晦日に言った言葉
「俺がまた翔を 菜穂のとこまで連れて来るから」
「お前らが離れないように 見守っててやるから」
が泣かせます。
できたら、翔のほうから、須和に告白しろって言ってほしいなあ。

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★未来から手紙が届いた世界はなんだったのか?
orangeで描かれるのはパラレルワールドです。
自分の力で未来は変えられる、というのは物語の中にずっと流れていること。
翔を救うということは、いろんな可能性のうちの一つでしかありません。
10年後翔がオレンジの夕日を見られるのか、菜穂と結婚できるのか、ということも、いろんな可能性があって、読み手の解釈に委ねられています。
パラレルワールドの考え方は、読み手の数だけ何通りもの未来があるんだろうなあ、と思わせてくれるところが好きです。

でも。10年後のみんなの視点で読んだとき、ふっと、これはもしかしてみんなの祈り、みんなの願いによって作られた奇跡の世界なんじゃ…という考えがよぎりました。
妄想と言ってしまえばそれまでなんですが、これはみんなの頭の中で作られた幸せな世界であって、現実ではない、って可能性もあるのかも…とか。

現実かどうか、なんで漫画の世界ではどうでもいいことなんですが、ね。
何にしろ、orangeの世界は、10年後のみんなの願いと今のみんなの願いや行動が作った世界なんだなあ…としみじみ思います。

春の弘法山の桜~から始まる約束は10年後のみんなが叶えられなかった約束ですが、オレンジの夕日は、きっと叶えられる約束。「orange」のタイトルと5巻の表紙を見て、そんなことを考えました。