ちはやふる29巻まで読んで感じた情熱

by とな


最近ずっと読んでました。
言わずと知れた人気作、
29巻まで読んで(キリが悪いんだけど…いま出てるのがそこだから…!)
「情熱」について思ったことまとめたいと思います。
ネタバレなので続きから↓




「情熱」
という言葉は作中でもちらほら出てきます。
千早・新・太一の三人の「情熱」ってなんなのかな、ってちょっと考えてみたいと思います。

◆新の情熱
まずは一番わかりやすい新から。
新はいちばん最初から、かるたに情熱を注いでいます。
なぜなら、名人になりたいから。大好きなおじいちゃんとの絆だから。
でも東京に来て、それが変化します。
たいせつなかるたを、千早、太一と共有したことで、チームでかるたをやることの喜びを知ります。
一度かるたから離れてしまった新。千早の神様みたいに思っている、という手紙を受け取ってからのモノローグは「神様じゃなくて 友達でいたいよ」です。
東京での経験がなかったら、新はかるたを再開できなかったと思います。
後々(17巻)、新はいちばん楽しかった、東京のアパートの部屋に戻って、かるたをやっていると千早に伝えています。
新にとっての情熱は、かるたを通した思い出全部ひっくるめて、そんな大好きなかるたでいちばんになることなんじゃないのかな。

◆千早の情熱
千早の小学生時代、実はわたしには高校生編よりずっとヒロインっぽく見えます。
素直で行動的で、それで失敗もしているんだけど、ちゃんと優しさがあって、
千早の周りを巻き込む力が、東京で孤立していた新を救ったと思うんです。
だけど、彼女にはお姉さんの影がいつもついて回っていて、自分には自信がない。
このままでは元気な脇役で終わるところの千早は、新のかるたへの情熱と出会って、クイーンになるという夢を持って、本当の意味でヒロインになった、と思います。

逆に、千早は新にチームというものを教えた…もちろん、太一もチームなんですが、巻き込んだのはやっぱり千早。(だからやっぱりここの関係ってすごい、すごくすごく少女漫画なんだと思う)

高校生編の千早も初めから、すっごい仲間欲しがっているんですよね。
単にクイーンになるだけなら、詩暢ちゃんのように一人でいいわけです。
でも千早にとってのかるたは新、そして太一とのチームの思い出。
だから、その後かるた部で仲間と共に戦うことに情熱を燃やします。

クイーンになるという夢は紛れもなく新からもらった情熱なんですが、それだけじゃない、とわたしは思います。チームで戦うことは、千早が大事に育ててきた情熱です。それはやっぱり、3人の思い出があるから。
千早の情熱は新に与えられ、太一に見守られて育てたものだと思います。
新は千早のいつも先にいる存在ですが、太一は千早の横にいる存在。
どうしても新に目が行きがちだけど、太一も欠いてはならない大切な存在だと思うんです。

◆太一の情熱
太一…太一がいちばん難しいと思います。
千早にふられて部活をやめた27巻、周防名人の「君はかるたを好きじゃないのに」と太一は見透かされます。
太一が何か行動するときにはいつも千早の存在があって、パッと見、千早と同じ土俵に上がりたくてかるた始めたような不純な男に見えます。
でも、わたしはそれは違うんじゃないかなーと思うんです。

小学生時代の太一は何でもできることを鼻にかけたガキ大将みたいなやつ。
だけど千早は太一が誰より努力していることをちゃんと見ていて、よく知っています。
太一は母から勝てるものだけ勝負しなさい、と教えられていますが、つまり、絶対に勝てるように努力しろってことなんですよね…。
そんな太一に千早は絶対的な信頼を置いているんです。

太一も子供ながらにそれがわかっているからこそ、百人一首大会で犯したズルは呪縛になってしまいました。
わたし、これずっと新に張り合ってズルしたんだって読んでいたんですが、
改めて一巻見返してみたらちょっと違うんですね。
太一は「ストレス・プレッシャーに弱い」
太一は自分に負けて、圧倒的に強い新との戦いを放棄しちゃったんです。

(新にはすぐに謝ったけど、千早には言えなかった太一。
奇しくもふたりとも千早には嫌われたくない、と思っていることがわかる重要なシーン、この時すでにふたりとも千早が好きなんだなあ…)

おそらく、太一にとっての新は、これまでなんでもいちばんで、千早にとってもいちばん近い男の子だったのに、初めて出現した絶対に勝てない相手です。
これまでなら何か理由をつけてあきらめちゃうであろう太一に変化をもたらしたのは、意外にも千早ではなく新なんですよね。
白波会に最初に三人で乗り込んだとき、試合中の新の「太一 ナイス」の言葉。
散々いじわるしたのに、仕返しすることもなく自分を受け入れ信頼した新の言葉に、次の小学生大会を知るシーンでは、千早・新の三人のチームで戦うことにやる気になっているんです。

この時から太一はものすごい自己矛盾を抱えていると思います。
新は敵だけど仲間で、仲間だけど敵で、新には絶対に勝てないけど勝ちたくて、自分が勝てないかるたは好きじゃないけど、楽しかったんだと思うんです。

高校生編で千早と再会した太一は、勝てないからという理由で再びかるたに向き合うことをやめています。でも原田先生の「青春全部懸けてから言いなさい」の言葉が太一を動かします。
千早や新と違うのは、太一がかるたに向き合うということは、自分に向き合うことそのものだということだと思います。そこにはかつて負けを認めてしまった呪縛があるように思います。
「かるたの才能なんておれだって持ってねえ きついけどやってんだ 負けるけどやってんだ だって勝てたときどんだけうれしいか…っ」
という机くんに向けた言葉は、太一がいなくなってからも机くんを支えてくれる言葉になりますが、この時点でもう太一がかるたをやる理由っていうのは明らかなんですよね。
今度こそ新と正々堂々と戦うってことだと思うんです。

さて、転機となった26巻、高松宮杯で、太一は新と戦うという目標を果たします。同時に、新の口から千早に告白したことを知ります。新は太一を見下してなんかいなくて、ちゃんとライバルで友達だと思っています。だからこそ、負けたのは心が折れそうなほど悔しかったでしょう。
この後太一はしばらく「ただかるた取っているだけ」になりますが、バレンタインの菫ちゃんのまっすぐな思いや、かつての思い出に帰らせてくれた太一杯は、太一にもう一度、自分と向き合う勇気を与えてくれました。
それがあの告白に至るんですよね。
過去に犯したズルを告白し、ようやく呪縛から解き放たれた太一のまっすぐな想い。
受け取ってもらえなかった太一の想い。

でもなー、おもしろいなと思うのはここじゃないんです。
ふられた後も何事もなかったようにかるた部に顔を出していた太一が、退部を決意するシーンは、新学期に渡された実力テストの結果が出てからなんですよね。
これって「ずっと ずっと 卑怯じゃない人間になりたかった」太一が見せた意地だと思うんです。
だから千早にだけは、退部なんていやだと言われたくなかった、同時に言ってほしかったのかなあとも思いますが…。

そうして、かるたと離れることになった太一ですが、自分と同じように「かるたが好きじゃない」のに無敵という周防名人に導かれ、またかるたを始めます。
才能のそばにいることは思いのほか苦しくない。
小学生の時の千早も新も、高校生になってからの部活のみんなも、“かるたが大好きなみんな”は太一をすごくすごく信頼しているんですよね。
同時にそれはずっと彼の重荷になっていたと思います。
重荷を手放し、呪縛からも解き放たれて、初めて感じる、かるたが楽しいということ。
けれど矛盾しているようですが、その向こうには「畳の上で努力し続けられる」仲間がいます。

少なくとも26巻までの太一の情熱は、間違いなくかるたを通して真島太一自身に向き合うことだと思います。
そういう意味では、太一は詩暢ちゃんと同じような孤独な存在です。
でも、自分と向き合わなければならない楽しくないかるたをやれたのは、周防名人が言ったように、かるたが大好きな仲間が、大好きだったからなんでしょう。

でも、その後はどうなんでしょう。
一度仲間と離れ、それでもひっそりと続けたかるたが、ようやく彼の中で実体を持ち始めたような気がするんです。
29巻の時点では、ちょっとずつ変化し始めたな、という印象、ここからどうなるのかはまだわかりませんが…わたしは、これまでの太一ではない太一に変わっていくんじゃないか、と思っています。

◆これから楽しみなこと
「ちはやふる」が向かうところは一巻冒頭の千早がクイーン戦に臨むシーン。
6年前が小6というのだから高3で間違いないし、相手は左利きだから詩暢ちゃんで間違いない。

問題は名人戦ですが、周防名人対新になることはほぼ確実でしょう。
(ただ周防名人は病気があるので、そこはちょっと不安定な要素かも)

じゃあ太一は?って話なんですが。
千早だけでなく、太一にとっても新は常に先にいる存在です。
だから、太一は新と同じところで名人の座をかけて戦うというより、先に名人になった新から名人の座を奪う側なんじゃないかと思うんですよね…。

26巻の新・太一戦、太一が狙い札にしていた「ちは」は出ず、もし出ていたら、自分は守れただろうか、と新は自分に問いかけています。そして、また何度でも戦いたい、と。
これってすっごい伏線で、「ちは」を奪い取って太一が勝つ戦いが絶対にあると思うんです。

というかそうであってほしい。
わたしは原田先生が一番好きなんですが(え)、原田先生の悲願、白波会から名人を出すという夢を叶えられるのは太一しかいないと思うんです。
でもそれは今じゃない、それが才能の差、周防名人いわく「火が付くまでの時間」の差であり、未来であってほしいなーていうのがわたしの希望。

(でもこれ千早がクイーンに、新が名人になるまでのストーリーだから時差なんてダメじゃん…わたしの妄想止まりじゃん……)

さて、この26巻の伏線の話はそのまま恋愛に置き換わっちゃうのがこの漫画の怖いところですよね。奇しくも、26巻新・太一戦の時点では、完全に新のもとに心がある千早を、太一は奪うチャンスすらありませんでした。その悔しさを経て、先述のように太一は千早に告白します。
かるたで、長いこと太一には運がない、運命戦で自陣が詠まれないことが出てきていますが、それには太一の「行動しない」という行動があるんですよね(たぶん)。太一がようやく動いたことは、物語の流れを変えるような気がします。運命に身を任せてはダメなんです、かるたも、恋も、人生も。自分でつかまなくちゃいけないんです。

かるたで言ったらまさに、新の陣にある「ちは」が詠まれた状態だと思うんですよ。だから、どっちが「ちは」をとるか、「ちは」がどっちを選ぶか、です。

もちろんセオリー通りなら新だし、恋にしても、かるたにしても、現状の太一は新と遠すぎます。でも少年漫画のような、ものすごい逆転劇があれば、何か変わるかもしれない。
そう期待してしまうんですよね。まあ逆転はないにしても、わたしが楽しみなのは太一の成長です。

わたしは強くないキャラクターが努力するのがすっごい好きなので、どうしても太一贔屓してしまうんですが、新のこともとても好きです。本当に純粋でまっすぐで、応援するしかないじゃないですか、新のことも。
漫画である以上、結末はひとつしかありませんから、どういう結末になっても一言では言い表せない気持ちになるでしょう。
そういう気持ちにさせてくれたこの作品が本当に好きだし、これからの展開もしっかり追っていこうと思います。
高3のクイーン戦がひとつの到達点である以上、もう終わりが近いのかと思うとすごく寂しく、早く続きが読みたいような、読みたくないような気持ちがするんですけどね。
末次先生、応援しています。